「反体制派の罪人」から、「社会を変えた聖人」となったキング牧師:歴史的観点から、社会運動の意義を考える

クレイグとマークのコラムの紹介です。

 

https://www.we.org/stories/using-historical-activists-to-shape-our-perspectives-on-the-social-movements-of-today/

 

アウンサンスーチーが、カナダで新たな歴史をつくりました。

わずか6人の外国人にしか授与されていない名誉市民号を

はく奪された初の人物として、ミャンマーの実質的なリーダー

が名を刻むこととなりました。アウンサンスーチーが率いる政

権が、少数民族のロヒンギャを迫害しているからです。

 

かつての英雄の失脚が、いまあちこちで起きています。「歴

史的偉業」を成し遂げたとされる人たち、「大英帝国の偉大

な政治家」と言われていたセシル・ローズや、カナダの初代

首相まで、あらゆる「偉人」が、否定的な評価を受けるように

なりつつあります。

 

歴史の再考というのは、否定的な評価をもたらすという側

面がある一方で、新たな肯定的評価をもたらすということ

もありえます。「現在の反乱分子」が「未来の英雄」になる

というのはよくあることです。歴史を考える際に忘れては

いけないのは、「長いスパンで考える」ということです。社

会正義の問題については特にそれが大事です。また、現

在の社会運動を考えるうえでも、その視点は重要です。ブ

ラック・ライヴズ・マターや、#MeToo、アメリカでの銃規制の

強化を求める若者たちの運動や、カナダの先住民の人た

ちが権利や自己決定権を求めている運動など、現在批判

を受けることもある運動を考える際においても。

 

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師を例にして話を

しましょう。生前のキング牧師は、ベトナム戦争への反対な

ど、当時のアメリカ社会では「非主流」な主張を訴えていま

した。キング牧師が暗殺される2年前に行われた世論調査

では、キング牧師の考えを支持する人は33%に留まってい

ました。半世紀経ったいま、キング牧師はアメリカの聖人と

して、多くの人に尊敬され崇拝されています。しかし、その

崇拝の実態は、「私には夢がある」のスピーチを教科書で

見て感動するというくらいで、キング牧師の思想や活動を

知る人はそれほど多くいません。

 

大統領選に出馬したこともある活動家のジェシー・ジャクソン

牧師は、ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、キング牧師を、

「アメリカで愛された筋金入りの急進主義者」と表現し、「デモ

で演説してた人」としてではなく、「社会正義のために闘った

殉教者」として記憶されるべきと評しています。生前は「非主

流派の活動家」評されていたキング牧師が、現在は、「社会

正義の英雄」と称えられているのを見て分かる通り、私たち

の目の前で起きている社会運動を、私たちが正しく評価でき

ていて、その評価がずっと未来も続くとは、実はとてもいえな

くて、むしろいま起こっている運動への評価は、間違っている

場合も多いのです。

 

キング牧師を教科書で学んだ私たちは、「人種差別は絶対

にいけないことだと思います」と模範解答のように学校で答

えながら、「もし自分も60年代に生きていたら、キング牧師と

共に肩を組んで歩き人種差別反対を叫んで共に立ち上がると

思います。」と軽々と言えてしまうかもしれません。でも、それ

は私たちが差別をいけないと思っているからなのでしょうか?

それとも、正論を言って、「意識高い自分かっこいい!」という

自己満足に浸りたいという密かな欲望からでしょうか?「キン

グ牧師を尊敬する」と口では言いながら、いま差別や不平等

に対して声を挙げて運動をしている人たちに対しては、「冷め

た目で見てしまう」あるいは「参加するのを躊躇してしまう」と

思っているあなたも実はいるのではないですか?

 

実は、公民権を求める抗議活動が起こっていた当時、大半

のアメリカ人は運動に賛同していませんでした。む

しろ、キング牧師の運動はアメリカに痛みや負担を

押し付けたという評価をした人が大半でした。もっと

身近なところでいえば、カナダで女性参政権を求め

る運動が起きていた20世紀初頭、大半のカナダ人

は女性参政権に反対していたのです。また、カナダ

の先住民の子どもたちに対する同化政策に反対の

声を挙げていた人たちは、ごくわずかでした。

 

「いまでは当然と思われていること、人種隔離

政策の撤廃や同性婚、女性参政権は、かつて

は『過激な思想』として扱われてきたのです。」

カリフォルニアのオクシデンタル大学の政治学

者、ピータ・ドライエル教授はそう語ります。

 

現在では、キング牧師の主張は普遍的価値として受け入

れられ、カナダの女性運参政権を求める運動を行った女

性たちは、英雄として称えられています。カナダの先住民

の同化政策は、謝りだったとカナダ政府も認めています。

現在の社会運動を見る際も、このような過去を踏まえて見

る必要があります。いまも社会運動に対してはいろんな批

判があります。現職の政治家が、デモをする人たちを「暴

力行為を行う人」という趣旨で非難したり、セクハラの被害

者に対して連帯の声を示す議員たちを、「票稼ぎのパフォ

ーマンス」という趣旨で非難する人たちがいたり。しかし、

そういった声を聞いた時も、運動について長期的な視野で

見ていくことを忘れないことが大事です。

 

私たち兄弟も、キング牧師の生き方、社会を良くしていくた

めの奉仕活動に大きな影響を受けてきました。とはいえ、そ

れは私たちが個人の意識としてキング牧師を尊敬していた

というだけでなく、私たちが生きてきた時代や社会が、「キン

グ牧師を偶像化していった」過程にあった世の中の空気を、

無自覚に私たちが反映していたという側面があるということ

も認めざるを得ません。社会や時代がキング牧師をある意

味で偶像化していた面があったということに関して、私たち

自身が長いあいだ無自覚でいたということは確かです。私

たちはキング牧師ともう一度向き合う必要があると思いま

す。そして、キング牧師が登場する以前に社会を改善して

いった人たちのことも知る必要があります。では、歴史の本

を読んでいけばそれで良いのかと言えば、それも違います。

キング牧師の思想や理念を実現するために、「いま」運動し

ている人たちと共に、アクションを起こすべきなのです。

 

「キング牧師は過激だ」、「キング牧師は理想が高すぎる」、

「キング牧師の掲げる理念はいまの時代にはまだ早い」。キ

ング牧師はそう言われ続けてきました。そして、そのような批

判は、いまの時代の活動家に対してもよくあるものです。しか

し、過去を見れば、そのような批判はそれほど気にするべきこ

とではないということが分かります。立ち上がった人々が起こし

たムーブメントに、社会はだいぶ遅れて後からついていくという

のは、「お決まりのパターン」ですから、気にする必要は全くあり

ません!50年後には、そのムーブメントがいまとは全く違う評価

を受けている可能性もあるのですから!

 

いまさらキング牧師と一緒に行進しようと思っても、それは

もう叶いません。でも、社会を変えるムーブメントに加わる

ことはいつでもできます。いますぐにでも!

 

参考リンク

カナダの名誉市民号をはく奪されたアウンサンスーチー

 

https://www.bbc.com/japanese/45674772

 

セシル・ローズの銅像を撤去した南アフリカの大学

 

http://www.afpbb.com/articles/-/3044987

 

先住民からの批判を受け撤去されたカナダ初代首相の銅像

 

https://thegroupofeight.com/2018/08/15/john-a-macdonald/

 

反戦運動など、様々な運動に取り組んでいたキング牧師

 

https://megumiboxy.exblog.jp/d2018-06-16/


存命時はキング牧師に批判的だったアメリカの世論と現在

のキング牧師への評価の違い

 

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/photo/17/c/032900014/


 

ジェシー・ジャクソン牧師のニューヨーク・タイムズへの寄稿

(英語)

 

https://www.nytimes.com/2018/04/03/opinion/jesse-jackson-martin-luther-king.html


過去の先住民政策を謝罪したカナダ政府

 

https://www.huffingtonpost.jp/yuki-murohashi/canada-change_b_8848234.html

 

デモを「暴力行為に等しい」という趣旨で批判した現職の政

治家(発言自体は後に撤回)

 

https://www.sankei.com/politics/news/131202/plt1312020018-n1.html


セクハラ行為を受けた被害者に対して、連帯の意を示した

議員の多くがネットなどで「パフオーマンス」と揶揄されてい

る現状を危惧する声

 

https://www.yomu-kokkai.com/entry/yatou-metoo